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Suizei

綏靖天皇





神渟名川耳天皇、神日本磐余彦天皇第三子也。母曰媛蹈五十鈴媛命、事代主神之大女也。

天皇風姿岐嶷、少有雄拔之氣、及壯容貎魁偉、武藝過人、而志尚沈毅。至八歳、

神日本磐余彦天皇崩。時、神渟名川耳尊、孝性純深、悲慕無已、特留心於喪葬之事焉。

其庶兄手研耳命、行年已長、久歴朝機。故、亦委事而親之。然其王、立操懷、本乖仁義、

遂以諒闇之際、威福自由、苞藏禍心、圖害二弟。于時也、太歳己卯。


神渟名川耳天皇(かむぬなかわみみすめらみこと)は、

神日本磐余彦天皇(かむやまといはれひこすめらみこと)の第三子です。

母は媛蹈五十鈴媛命(ひめたたらいすずひめのみこと)と言って、事代主神の長女です。

　　　神日本磐余彦天皇・・・神武天皇

天皇の姿は生まれつき立派なで、幼い頃は英雄の雰囲気があり、および

勇ましく容貌はからだが人並外れて大きく、武芸は人に勝り、そして志は尚も

物事に動じませんでした。

四十八歳に至り、神武天皇が崩御しました。

時に、神渟名川耳尊は、孝行の性質がもっぱら深く、悲しみ恋しく思うことに

已むことが無く、特に喪葬の事を心に留めました。

その諸々を兄の手研耳命(たきしみみのみこと)は、この世に生まれてからすでに長く、

久しく政を経験してました。

故に、出来事を詳しくしてこれを自ら成しました。

しかしその王は、志を変えず心の思いが豊かで、本質的に仁義から

逸脱していて、それから喪に服する期間の際に、自由にある時は威力で

ある時は福徳をもって人を服従させ、邪心を包み隠し、二人の弟を

害そうと図りました。

この時は、太歳己卯です。



冬十一月、神渟名川耳尊、與兄神八井耳命、陰知其志而善防之。至於山陵事畢、

乃使弓部稚彦造弓、倭鍛部天津眞浦造眞鏃、矢部作箭。及弓矢既成、神渟名川耳尊、

欲以射殺手研耳命。會有手研耳命於片丘大中獨臥于大牀、時渟名川耳尊、謂神八井耳命曰

「今適其時也。夫言貴密、事宜愼、故我之陰謀、本無預者。今日之事、唯吾與爾自行之耳。

吾當先開戸、爾其射之。」


冬十一月、神渟名川耳尊(かむぬなかわみみのみこと)は、

兄の神八井耳命(かむやゐみみのみこと)と、密かにその志を知ってうまくこれを

防ぎました。

山陵(みささき)の事を結えるに至って、そこで弓部(ゆみべ)の稚彦(わかひこ)に

弓を造らせ、倭(やまと)の鍛部(かぬちべ)の天津真浦(あまつまうら)に真鏃(まかごのやさき)を

造らせ、矢部が箭を作りました。

　　　鍛部・・・刀剣その他の鉄製雑具を作った部民の一つ

　　　真鏃・・・矢じり

　　　箭・・・や（矢）。また、やだけ。

そして弓矢は既にできていて、神渟名川耳尊が、手研耳命を射殺したかったでした。

たまたま手研耳命がいて片丘(かたをか)の大きな室の中で大きな寝台に一人で

臥せていて、その時に渟名川耳尊が神八井耳命に言いました

　「今まさにその時だ。それ貴い秘密を言い、事を宜しく慎むのがよく、故に

我の陰謀は、元から預かる者がいない。今日の事、ただ我と汝は自ら

行う耳だ。吾はまず室の戸を開けて、汝がそれを射よ。」



因相隨進入、神渟名川耳尊、突開其戸。神八井耳命、則手脚戰慄、不能放矢。時神渟名川耳尊、

掣取其兄所持弓矢而射手研耳命、一發中胸、再發中背、遂殺之。於是、神八井耳命、懣然自服、

讓於神渟名川耳尊曰「吾是乃兄、而懦弱不能致果。今汝特挺神武、自誅元惡。宜哉乎、

汝之光臨天位、以承皇祖之業。吾當爲汝輔之、奉典神祇者。」是即多臣之始祖也。


そして相従い進入し、神渟名川耳尊は、その戸を突き開きました。

神八井耳命は、手足がわななき、矢を放てませんでした。

時に神渟名川耳尊は、その兄の持つ弓矢を抽き取って手研耳命を射り、

一度放ち胸に当て、再び放ち背に当て、遂にはこれを殺しました。

ここに、神八井耳命は、だえ嘆きみずから非を認めて相手に従い、

神渟名川耳尊に譲って言いました

　「吾はこれの兄だが、しかし性格が弱いので果たすことができない。

今汝は特に神のような不思議な武徳に抜きん出ており、自ら元凶を滅ぼす。

いい考えだ、汝の光は天子の位にも臨み、思うに皇祖の業を承った。

吾は汝の為にこれをたすけ、天地の神々をつつしんで供える。」

これ即ち多臣(おおおみ)の始祖です。

　　　多臣氏族・・・大和国十市郡飫富郷(奈良県磯城郡田原本町)を本拠とした一族



元年春正月壬申朔己卯、神渟名川耳尊、即天皇位。都葛城、是謂高丘宮。尊皇后曰皇太后。

是年也、太歳庚辰。


即位の第一年春１月８日、神渟名川耳尊は、天皇位につきました。

葛城に都をおき、これを高丘宮(たかをかのみや)と言います。

皇后を尊び皇太后と言います。

この年は太歳庚辰です。



二年春正月、立五十鈴依媛爲皇后。一書云、磯城縣主女川派媛。一書云、

春日縣主大日諸女絲織媛也。即天皇之姨也、后生磯城津彦玉手看天皇。


二年春正月、五十鈴依媛(いすずよりひめ)を立て皇后としました。

ある書にはでは、磯城(しき)の県主の娘の川派媛(かはまたひめ)と言い、

ある書では、春日(かすが)の県主の大日諸(おほひもろ)の娘の糸織媛(いとよりひめ)

と言います。

すなわち天皇の叔母で、后は磯城津彦玉手看(しきつひこたまてみ)の天皇を

産みました。



四年夏四月、神八井耳命薨。即葬于畝傍山北。


四年夏四月、神八井耳命が亡くなられました。

そして畝傍山(うねびのやま)の北に葬られました。



廿五年春正月壬午朔戊子、立皇子磯城津彦玉手看尊、爲皇太子。


即位２５年の春１月の７日、皇子の磯城津彦玉手看尊(しきつひこたまてみのみこと)を

立て、皇太子としました。



卅三年夏五月、天皇不豫。癸酉、崩。時年八十四。


即位３３年の夏５月、天皇は病気になられました。

十日、崩御されました。

84歳でした。






安寧天皇





磯城津彦玉手看天皇、神渟名川耳天皇太子也。母曰五十鈴依媛命、事代主神之少女也。

天皇、以神渟名川耳天皇廿五年、立爲皇太子、年廿一。


磯城津彦玉手看(しきつひこたまてみ)の天皇は、神渟名川耳(かむぬなかはみみ)の

天皇の太子です。

母は五十鈴依媛命と言い、事代主の神娘です。

天皇は、神渟名川耳天皇が二十五年に、皇太子に立ちました。

歳は21でした。



卅三年夏五月、神渟名川耳天皇崩。其年七月癸亥朔乙丑、太子即天皇位。


三十三年夏五月、神渟名川耳天皇が崩御されました。

その年の七月三日、太子が天皇の位につきました。



元年冬十月丙戌朔丙申、葬神渟名川耳天皇於倭桃花鳥田丘上陵。尊皇后曰皇太后。

是年也、太歳癸丑。


元年冬十月十一日、神渟名川耳天皇を倭の桃花鳥田(つきた)の丘上の

陵(みささき)に葬りました。

皇后を尊び皇太后と言いました。

この年、太歳癸丑です。



二年遷都於片鹽、是謂浮孔宮。


二年に片鹽(かたしほ)に遷都し、これを浮孔宮(うきあなのみや)と言います。



三年春正月戊寅朔壬午、立渟名底仲媛命亦曰渟名襲媛爲皇后。一書云、

磯城縣主葉江女川津媛。一書云、大間宿禰女糸井媛。先是、后生二皇子、第一曰息石耳命、

第二曰大日本彦耜友天皇。一云、生三皇子、第一曰常津彦某兄、第二曰大日本彦耜友天皇、

第三曰磯城津彦命。


三年春正月五日、渟名底仲媛命(ぬなそこなかつひめのみこと)またの名を

渟名襲媛(ぬなそひめ)を立てて皇后としました。

ある書には、磯城(しき)の県主(あがたぬし)の葉江(はえ)の娘の川津媛(かはつひめ)

とあります。

ある書には、大間(おほま)の宿祢(すくね)の娘の糸井媛(いとゐひめ)とあります。

この先、后は二皇子を生み、第一が息石耳命(おきそみみのみこと)と言い、

第二が大日本彦耜友天皇(おほやまとひこすきともすめらみこと)と言います。

ある書には、三皇子を生み、第一が常津彦某兄(とこつひこいろね)と言い、

第二が大日本彦耜友天皇と言い、第三が磯城津彦命(しきつひこのみこひと)

と言います。



十一年春正月壬戌朔、立大日本彦耜友尊、爲皇太子也。弟磯城津彦命、是猪使連之始祖也。


十一年春正月壬戌朔、大日本彦耜友尊を立たせて、皇太子にしました。

弟の磯城津彦命、これは猪使連(ゐつかひのむらじ)の始祖です。



卅八年冬十二月庚戌朔乙卯、天皇崩。時年五十七。


三十八年冬十二月六日、天皇が崩御されました。

その時五十七歳です。






懿德天皇





大日本彦耜友天皇、磯城津彦玉手看天皇第二子也。母曰渟名底仲媛命、事代主神孫、

鴨王女也。磯城津彦玉手看天皇十一年正春正月壬戌、立爲皇太子。年十六。


大日本彦耜友天皇(おほやまとひこすきとものすめらみこと)は、

磯城津彦玉手看天皇(しきつひこたまてみのすめらみこと)の第二子です。

母は渟名底仲媛命といい、事代主神(ことしろぬしのかみ)の孫で

鴨王(かものきみ)の娘です。

磯城津彦玉手看天皇の十一年春正月一日皇太子に立ちました。

歳は十六歳です。



卅八年冬十二月、磯城津彦玉手看天皇崩。


三十八年十二月、磯城津彦玉手看天皇が崩御しました。



元年春二月己酉朔壬子、皇太子即天皇位。秋八月丙午朔、

葬磯城津彦玉手看天皇於畝傍山南御陰井上陵。九月丙子朔乙丑、尊皇后曰皇太后。

是年也、太歳辛卯。


元年春二月四日、皇太子は天皇位につきました。

秋八月丙午朔、磯城津彦玉手看天皇を畝傍山の南の御陰井上(みほとのゐのへ)の

陵に葬りました。

九月丙子朔乙丑、皇后を尊び皇太后と言いました。

この年は、太歳辛卯です



二年春正月甲戌朔戊寅、遷都於輕地、是謂曲峽宮。二月癸卯朔癸丑、立天豐津媛命爲皇后。

一云、磯城縣主葉江男弟猪手女泉媛。一云、磯城縣主太眞稚彦女飯日媛也。

后、生觀松彦香殖稻天皇。一云、天皇母弟武石彦奇友背命。


二年春正月五日、軽(かる)の地に遷都し、これを曲峡宮(まがりをのみや)と言います。

二月十一日、天豊津媛命(あめとよつひめのみこと)を立てて皇后としました。

ある書には、磯城県主(しきのあがたぬし)の葉江(はえ)の弟の娘の

泉媛(いづみひめ)とあります。

ある書には、磯城県主の太真稚彦(ふとまわかひこ)の娘の飯日媛(いひひひめ)であると

あります。

后は、観松彦香殖稲天皇(みまつひこかゑしねのすめらみこと)を生みました。

ある書には、天皇の母は弟の武石彦奇友背命(たけしひこくしともせのみこと)を生みました



廿二年春二月丁未朔戊午、立觀松彦香殖稻尊、爲皇太子、年十八。


二十二年春二月十二日、観松彦香殖稲尊を立てて、皇太子としました、

歳は１８歳です。



卅四年秋九月甲子朔辛未、天皇崩。


三十四年秋九月八日、天皇が崩御されました。






孝昭天皇





觀松彦香殖稻天皇、大日本彦耜友天皇太子也。母皇后天豐津媛命、息石耳命之女也。天皇、

以大日本彦耜友天皇廿二年春二月丁未朔戊午、立爲皇太子。卅四年秋九月、

大日本彦耜友天皇崩。明年冬十月戊午庚午、葬大日本彦耜友天皇於畝傍山南纎沙谿上陵。


観松彦香殖稲天皇(みまつひこかゑしねのすめらみこと)は、

大日本彦耜友天皇(おほやまとひこすきとものすめらみこと)の太子です。

母の皇后の天豊津媛命(あまとよつひめのみこと)は、息石耳命(おきそみみのみこと)の娘です。

天皇は、大日本彦耜友天皇の二十二年二月十二日に、立って皇太子に

なりました。

三十四年秋九月、大日本彦耜友天皇が崩御されました。

明くる年の冬十月十三日、大日本彦耜友天皇を畝傍山(うねびやま)の南の

纎沙谿上陵(まさごのたにのへのみささき)に葬りました。



元年春正月丙戌朔甲午、皇太子即天皇位。夏四月乙卯朔己未、尊皇后曰皇太后。秋七月、

遷都於掖上、是謂池心宮。是年也、太歳丙寅。


元年春正月九日、皇太子は天皇の位に就きました。

夏四月九日、皇后を尊び皇太后と呼びました。

秋七月、掖上(わきのかみ)に遷都し、池心宮(いけこころのみや)と言いました。

この年は、太歳丙寅です。



廿九年春正月甲辰朔丙午、立世襲足媛爲皇后。一云、磯城縣主葉江女渟名城津媛。一云、

倭國豐秋狹太媛女大井媛也。后生天足彦國押人命・日本足彦國押人天皇。


二十九年春正月三日、世襲足媛(よそたらしひめ)を立てて皇后になりました。

ある書には、磯城(しき)の県主(あがたぬし)葉江(はえ)の娘の渟名城津媛(ぬなきつひめ)

とあります。

ある書には、倭国(やまとのくに)の豊秋狭太媛(とよあきせたひめ)の娘の大井媛(おほゐひめ)

とあります。

后は天足彦国押人命(あまたらしひこくにおしひとのみこと)、

日本足彦国押人天皇(やまとたらしひこくにおしひとのすめらみこと)を生みました。



六十八年春正月丁亥朔庚子、立日本足彦國押人尊、皇太子、年廿。天足彦國押人命、

此和珥臣等始祖也。


六十八年春正月十四日、日本足彦國押人尊を立てて、皇太子とし、

歳は二十。

天足彦國押人命は、この和珥臣(ワニノオミ)らの始祖です。



八十三年秋八月丁巳朔辛酉、天皇崩。


八十三年秋八月五日、天皇は崩御されました。







孝安天皇





日本足彦國押人天皇、觀松彦香殖稻天皇第二子也。母曰世襲足媛、

尾張連遠祖瀛津世襲之妹也。天皇、以觀松彦香殖稻天皇六十八年春正月、立爲皇太子。

八十三年秋八月、觀松彦香殖稻天皇崩。


日本足彦国押人天皇(やまとたらしひこおしひとすめらみこと)は、

観松彦香殖稲天皇(みまつひこかゑしねすめらみこと)の第二子です。

母は世襲足媛(よそたらしひめ)といい、尾張(をはり)の連(むらじ)の遠祖の

瀛津世襲(をきつよそ)の妹です。

天皇は、観松彦香殖稲天皇の六十八年春正月、立って皇太子になりました。

八十三年秋八月、觀松彦香殖稻天皇は崩御されました。



元年春正月乙酉朔辛卯、皇太子即天皇位。秋八月辛巳朔、尊皇后曰皇太后。是年也、

太歳己丑。


元年春正月七日、皇太子は天皇位に就きました。

秋八月辛巳朔、皇后を尊び皇太后といいます。

この年は太歳己丑です。



二年冬十月、遷都於室地、是謂秋津嶋宮。


二年冬十月、室(むろ)の地に遷都し、ここを秋津嶋宮(あきつしまのみや)と言います。



廿六年春二月己丑朔壬寅、立姪押媛爲皇后。一云、磯城縣主葉江女長媛。一云、

十市縣主五十坂彦女五十坂媛也。后生大日本根子彦太瓊天皇。


二十六年春二月十四日、姪の押媛(おしひめ)を立たせて皇后となりました。

ある書では、磯城(しき)の県主(あがたぬし)葉江(はえ)の娘の長媛(ながひめ)とあります。

ある書では、十市(とほち)の県主の五十坂彦(いさかひこ)の娘の

五十坂媛(いさかひめ)であるとあります。

后は大日本根子彦太瓊天皇(おほやまとねこひこふとにすめらみこと)を生みました。



卅八年秋八月丙子朔己丑、葬觀松彦香殖稻天皇于掖上博多山上陵。


三十八年秋八月十四日、観松彦香殖稲天皇を掖上(わきのかみ)の博多(はかた)の

山上(やまのへ)の陵に葬りました。



七十六年春正月己巳朔癸酉、立大日本根子彦太瓊尊、爲皇太子、年廿六。


七十六年春正月五日、大日本根子彦太瓊尊を立たせて、皇太子としました、

歳は二十六です。



百二年春正月戊戌朔丙午、天皇崩。


百二年春正月九日、天皇は崩御されました。






孝霊天皇





大日本根子彦太瓊天皇、日本足彦國押人天皇太子也。母曰押媛、蓋天足彦國押人命之女乎。

天皇、以日本足彦國押人天皇七十六年春正月、立爲皇太子。百二年春正月、

日本足彦國押人天皇崩。秋九月甲午朔丙午、葬日本足彦國押人天皇于玉手丘上陵。

冬十二月癸亥朔丙寅、皇太子遷都於黑田、是謂廬戸宮。


大日本根子彦太瓊天皇(おほやまとねこひこふとにすめらみこと)は、

日本足彦国押人天皇(やまとたらしひこくにおしひとすめらみこと)の太子です。

母は押媛(おしひめ)と言い、思うに天足彦国押人命(あまたらしひこくにおしひとのみこと)の

娘だろう。

天皇は、日本足彦国押人天皇の七十六年春正月に立たして皇太子と

なりました。

百二年春正月、日本足彦国押人天皇は崩御されました。

秋九月十三日、日本足彦国押人天皇を玉手(たまで)の丘上(をかのへ)の陵に

葬りました。

冬十二月四日、皇太子は黒田(くるた)に遷都をし、これを廬戸宮(いほとのみや)

と言います。



元年春正月壬辰朔癸卯、太子即天皇位。尊皇后曰皇太后。是年也、太歳辛未。


元年春正月十二日、太子は天皇位に就きました。

皇后を尊び皇太后と言いました。

この年は太歳辛未です。



二年春二月丙辰朔丙寅、立細媛命、爲皇后。一云、春日千乳早山香媛。一云、

十市縣主等祖女眞舌媛也。后生大日本根子彦國牽天皇。妃倭國香媛亦名某姉、

生倭迹々日百襲姫命・彦五十狹芹彦命亦名吉備津彦命・倭迹々稚屋姫命。亦妃某弟、

生彦狹嶋命・稚武彦命。弟稚武彦命、是吉備臣之始祖也。


二年春二月十一日、細媛命(ほそひめのみこと)を立て、皇后としました。

ある書には、春日千乳早山香媛(かすかのちちはやまかひめ)とあります。

ある書には、十市県主(とほちのあがたぬし)等の祖先の娘の真舌媛(ましたひめ)

とあります。

后は大日本根子彦国牽天皇(おおやまとねこひこくにくるのすめらみこと)を生みました。

妃は倭国香媛(やまとくにかひめ)またの名を某姉(はへいろね)といい、

倭迹々日百襲姫命(やまとととひももそひめのみこと)・彦五十狹芹彦命(ひこいさせりびこのみこと)

またの名を吉備津彦命(きびつひこのみこと)と倭迹々稚屋姫命(やまとととわかやひめのみこと)を

生みました。

別の妃は某弟(はへいろど)、彦狹嶋命(ひこさしまのみこと)と稚武彦命(わかたけひこのみこと)を

生みました。

弟の稚武彦命(わかたけひこのみこと)は、これは吉備(きび)の臣(おみ)の始祖です。



卅六年春正月己亥朔、立彦國牽尊、爲皇太子。


三十六年春正月一日、彦国牽尊(ひこくにくるのみこと)を立てて、皇太子としました。



七十六年春二月丙午朔癸丑、天皇崩。


七十六年春二月八日、天皇は崩御されました。







孝元天皇





大日本根子彦國牽天皇、大日本根子彦太瓊天皇太子也。母曰細媛命、磯城縣主大目之女也。

天皇、以大日本根子彦太瓊天皇卅六年春正月、立爲皇太子、年十九。七十六年春二月、

大日本根子彦太瓊天皇崩。


大日本根子彦国牽天皇(おほやまとねこひこくにくるすめらみこと)は、

大日本根子彦太瓊天皇(おほやまとねこひこふとにすめらみこと)の太子です。

母は細媛命（ほそひめのみこと）と言い、磯城(しき)の県主(あがたぬし)大目(おほめ)の娘です。

天皇は、大日本根子彦太瓊天皇三十六年春正月、立たして皇太子とし、

歳は19歳。

七十六年春二月、大日本根子彦太瓊天皇は崩御されました。



元年春正月辛未朔甲申、太子即天皇位。尊皇后曰皇太后。是年也、太歳丁亥。


元年春正月十五日、太子は天皇位に就きました。

皇后を尊び皇太后と言いました。

この年は、太歳丁亥です。



四年春三月甲申朔甲午、遷都於輕地、是謂境原宮。


四年春三月十一日、軽の地に遷都をし、これを境原宮(さかひのはらのみや)

と言います。



六年秋九月戊戌朔癸卯、葬大日本根子彦太瓊天皇于片丘馬坂陵。


六年秋九月六日、大日本根子彦太瓊天皇を片丘(かたをか)の馬坂(うむさか)の陵に

葬りました。




七年春二月丙寅朔丁卯、立欝色謎命爲皇后。后生二男一女、第一曰大彦命、

第二曰稚日本根子彦大日々天皇、第三曰倭迹々姫命。一云、天皇母弟少彦男心命也。

妃伊香色謎命、生彦太忍信命。次妃河内靑玉繋女埴安媛、生武埴安彦命。兄大彦命、

是阿倍臣・膳臣・阿閉臣・狹々城山君・筑紫國造・越國造・伊賀臣、凡七族之始祖也。

彦太忍信命、是武内宿禰之祖父也。


七年春二月二日、欝色謎命(うつしこのみこと)を立てて皇后としました。

后は二男一女を生み、第一を大彦命(おほひこのみこと)と言い、第二を

稚日本根子彦大日々天皇(わかやまとねこひこおほひびすめらみこと)と言い、第三を

倭迹々姫命(やまとととひめのみこと)と言います。

ある書では天皇の母弟の少彦男心命(すくなひこをこころのみこと)とあります。

伊香色謎命(いかしこめのみこと)を妃として、彦太忍信命(ひこふとおしまことのみこと)を

生みました。

次の妃は河内(かふち)の青玉繋(あをたましげ)の娘の埴安媛(はにやすひめ)で、

武埴安彦命(たけはにやすひこのみこと)を生みました。

兄の大彦命は、これ阿倍(あべ)の臣(おみ)・膳(かしはで)の臣・阿閉(あへ)の臣・

狭々城山(ささきやま)の君・筑紫(つくし)の国造(くにのみやつこ)・越(こし)の国造・

伊賀(いが)の臣、七族すべての始祖です。

彦太忍信命は、これ武内宿祢(たけのうちのすくね)の祖父です。



廿二年春正月己巳朔壬午、立稚日本根子彦大日々尊、爲皇太子、年十六。


二十二年春正月十四日、稚日本根子彦大日々尊(わかやまとねこひこおほひびのみこと)を

立てて、皇太子とし、歳は16。



五十七年秋九月壬申朔癸酉、大日本根子彦牽天皇崩。


五十七年秋九月二日、大日本根子彦牽天皇が崩御されました。







開化天皇





稚日本根子彦大日々天皇、大日本根子彦國牽天皇第二子也。母曰欝色謎命、

穗積臣達祖欝色雄命之妹也。天皇、以大日本根子彦國牽天皇廿二年春正月、立爲皇太子、

年十六。五十七年秋九月、大日本根子彦國牽天皇崩。冬十一月辛未朔壬午、太子即天皇位。


稚日本根子彦大日々天皇(わかやまとねこひこおほひびすめらみことすめらみこと)は、

大日本根子彦國牽天皇の第二子です。

母は欝色謎命(うつしこめのみこと)といい、穂積臣(ほつみのおみ)の遠い祖先の

欝色雄命(うつしこをのみこと)の妹です。

天皇は、大日本根子彦國牽天皇二十二年春正月、立って皇太子になり、

歳は十六でした。

五十七年秋九月、大日本根子彦國牽天皇が崩御されました。

冬十一月十二日、太子は天皇位に就きました。



元年春正月庚午朔癸酉、尊皇后曰皇太后。冬十月丙申朔戊申、遷都于春日之地春日、

此云箇酒鵝、是謂率川宮。率川、此云伊社箇波。是年也、太歳甲申。


元年春正月四日、皇后を尊び皇太后と言いました。

冬十月十三日、春日のちに遷都し(春日、これを箇酒鵝と言います)、

これを率川宮(いざかわのみや)と言います。

率川、これを伊社箇波と言います。

この年は、太歳甲申です。



五年春二月丁未朔壬子、葬大日本根子彦國牽天皇于劒池嶋上陵。


五年春二月六日、大日本根子彦国牽天皇を剣池嶋上(つるぎのいけのしまのへ)の陵に

葬りました。



六年春正月辛丑朔甲寅、立伊香色謎命爲皇后。是庶母也。后生御間城入彦五十瓊殖天皇。

先是、天皇、納丹波竹野媛爲妃、生彦湯産隅命。亦名彦簀命。

次妃和珥臣遠祖姥津命之妹姥津媛、生彦坐王。


六年春正月十四日、伊香色謎命(いかしこめのみこと)を皇后としました。

これは父の妾である母です。

后は御間城入彦五十瓊殖天皇(みまきいりひこいにゑのすめらみこと)を生みました。

この先、天皇は、丹波(たには)の竹野媛(たかのひめ)を受け入れて妃とし、

彦湯産隅命(ひこゆむすみねみこと)を生みました。

またの名は彦簀命(ひここもすのみこと)です。

次の妃は和珥(わに)の臣の遠い祖先の姥津命(おけつのみこと)の妹の

姥津媛(おけつひめ)で、彦坐王(ひこいますのみこ)を生みました。



廿八年春正月癸巳朔丁酉、立御間城入彦尊、爲皇太子、年十九。


二十八年春正月五日、御間城入彦尊(みまきいりひこのみこと)を立てて、皇太子とし、

歳は十九。




六十年夏四月丙辰朔甲子、天皇崩。冬十月癸丑朔乙卯、葬于春日率川坂本陵。

一云、坂上陵。時年百十五。


六十年夏四月九日、天皇は崩御されました。

冬十月三日、春日の率川(いざかは)の坂本(さかもと)の陵に葬りました。

ある書には、坂上陵(さかのへのみささぎ)とあります。

時は百十五年でした。